フランスの音楽教育は音楽院で行われます。しかし一口に音楽院と言っても、教育での段階や、レベルがそれぞれ異なります。
フランスの音楽教育の高等教育機関とは、高等国立音楽院(CNS)である2つの機関と、地方の「拠点」poleと呼ばれる10校以上の、文化省から高等教育の学位の授与を認められたConservatoire a rayonnement regionalの機関のことを指します。Conservatoire a rayonnement regionalでは、それぞれの協定大学とのパートナーシップの枠において高等教育の学位を取得できるプログラムの履修が可能です。
音楽教育において学士号に相当する学位は、DNSP (le diplome national superieur professionnel:職業的な高等国家免状)と呼ばれます。
以下では、高等教育機関から段階別に降順に記載していきます。
CNS Les Conservatoires nationaux superieurs (高等国立音楽院)
高等国立音楽院(CNS)はパリとリヨンにある音楽家育成の最高教育機関で、音楽院の頂点に位置します。第1課程(学士課程相当)が3年間で、DNSPの取得が目的となります。第2課程(修士課程相当)は2年間で、16歳から26歳までを対象としています。実技試験を重要視して選抜試験が行われます。審査はより若く、より才能が光る学生を集めることを目的に行われ、合格は容易ではありません。国立音楽院(CNS)を修了した学生のみが、同機関の博士課程への進学試験を受けられます。
Pole d’ensegnement superieur de la musique (音楽に関する高等教育の拠点)
地方の「拠点」poleと呼ばれる10の機関は3年間、DNSPの取得を目的に教育を行います。「拠点」を受験するためには、事前に後述の資格DNOPかDEMを取得していなければなりません。
地方、県立音楽院:DE取得コース
地方音楽院(CRR:les conservatoires a rayonnement regional)は地方自治体が管轄する学校で、フランス国内に約40校あります。県立音楽院(CRD:les conservatoires a rayonnement departemental) は県が管轄する学校で、フランス国内に約100校あります。
2年間でDE (les diplomes d'Etat: 国家資格)を取ることができます。CRRやCRDなどで取得可能なDNOP(le diplome national d'orientation professionnelle)は、音楽の高等教育へのアクセスのためのディプロマです。DEM(DEM, le diplome d'etudes musicales: 音楽研究免状)も同様に高等教育へのアクセスのためのものです。
就学期間は、最短で2年、最長で3年から4年です。
<学校例>
学校名 |
パリ地方音楽院(CRR de Paris: Conservatoire a rayonnement regional de Paris) |
対象者 |
・高等教育機関に進学を希望する者
・高等教育機関にまだ進学していない者
・既にある一定の段階まで音楽について習熟している者
・指導を受けたい教員がいる者 |
選抜方法 |
実技試験によって、選抜を行う。コースによっては面接を行うこともある。 |
学費 |
A. 特別課程:約200~1,300ユーロ/年(※)
B. 独奏者課程: 集団レッスンが750ユーロ/年、個別レッスンが1,500ユーロ/年
※家計収入によって変わります。一般には1,000~1,300ユーロ/年になるでしょう。 |
言語 |
フランス語 |
期間 |
2年~最長4年(専攻によっては3年) |
コミューン立音楽院/ コミューン間立音楽院(CRC/CRI, Les Conservatoires à rayonnement communal ou intercommunal)
市や区が単独・もしくは共同で管轄する学校で、フランス国内に300校以上あります 。
コミューン立音楽院/ コミューン間立音楽院では、一部で特別なカリキュラムCEPI(le cycle d'enseignement professionnel initial : 初等専門教育課程)を作っています。ここではDNOP(le diplome national d'orientation professionnelle : 職業指導国家資格)を取得できます。DNOP取得に年齢制限はありませんが、基本的に15歳~20歳の申請者が優遇されます。試験は、実技と筆記です。2年から4年間かけて、最低でも合計で750時間の講座を受講していることが修了要件です。
選択できる専門は多岐にわたっており、クラシック音楽だけではなく、古楽やジャズ、電子音楽も選択することができます 。ただし専門は、機関ごとに設置されているものが異なります。自分の希望する専門にあったところを探すことになるでしょう。
音楽院の中には、私立のものがごく少数ながらもあります。これらの多くは入学試験がなく、自分にあった段階からすぐに勉強できるという点で利点があります。
修了時に音楽研究資格(DEM)を取得できるコースもあります。
フランスの音楽院で学べるのは主にクラシック音楽です。しかしジャズやDJ音楽や民族音楽については、別で国家資格が定められており、そのための学校があります。取得までは、学校に登録して2年ほどを要します。
フランスの音楽教室の形態は様々です。各自治体に、手引きとなる指針を示すセンターがあります。パリの場合、市の機関としてMPAA(Maison des Pratiques Artistiques amateurs: 芸術愛好家センター)があります。センターで音楽教室を随時開催している他、音楽教室などの情報をまとめています。
また商業的な美術教室を展開している協会もあります。この形態は大きく二通りあります。まずパリ12区のモーリス・ラヴェル・活動センター(Centre d’animation Maurice Ravel)のように、スポーツや芸術についても講座を行っているものです。また他に、CFPM(Centre de Formation Professionnelle de la Musique : プロ音楽研修センター)のように、音楽に特化し、フランス全土に展開している協会もあります。
協会に所属しない個別の音楽教室は市役所・区役所が発行している生活の手引きのパンフレットの音楽学校の項目で調べることができます。
コンサートを主催している団体が、国立音楽院の教授をはじめとする音楽家を招いて、クラシックやジャズについて、器楽や歌唱、指揮などに関する講座を開いています。団体により多数の講習会が開かれます。
団体は様々です。公的団体に近いものもあれば、民間企業が芸術活動の支援として開催しているもの、音楽家個人が主催しているものなどあります。
講座は「アカデミー」「マスター・クラス」「スタージュ(研修)」など様々な名前で呼ばれます。受講期間は1週間程度のものが多くありますが、2期申し込むことのできるものもあります。また数は少ないですが、4週間受講できるものもあります。
規模は数百人を超える生徒が受講する大規模なものもあれば、小さいものもあります。地方で開催されるものは、多くの場合、寮を用意しています。
講習会の対象者は、プロを目指す方や高等教育機関への入学を目指す方からアマチュアの方も対象としたものまで様々です。
高いレベルの講習会では、選抜試験があるだけでなく、年齢制限が設けられているものもあります。選抜試験がないものでも、講習会ごとに想定されている水準がありますので、主催団体のウェブサイトを確認したり直接問い合わせたりするとよいでしょう。
フランスでは芸術作品の制作を学べる公立の高等美術大学(Ecoles superieures d’art)が約50校あります。また文化省の傘下の公立の美術・デザインのグランゼコール(Ecoles Superieures d’Art et de Design)が約45校あります。私立の機関の多くはカトリック芸術を学ぶためのものです。芸術一般を学ぶには、国公立の学校に入ることになりますが、国公立の美術大学はいずれも難関校ですので、これらを目指す方はまず準備過程を検討することも堅実な手でしょう。
高等国立学校 Les Ecoles nationales superieuresの名を冠する機関は各分野の最高峰です。これらはグランゼコールに相当し、学士課程と修士課程に相当する一貫校や、実質的に修士に相当する課程のみのものなど様々です。
伝統的な美術の機関は、国立高等美術学校(ENSBA: Ecole nationale superieure des beaux-arts)があります。特にパリ美術学校(Beaux-arts de Paris)の設立は17世紀に遡ります。この機関は学士課程と修士課程に相当し、5年で一貫した教育を行うことを目指します。学生はアトリエでの制作を中心に、造形技術、伝統、理論など、様々な分野の教育を受けることになります。ここで取得することができる修士号に相当する学位は、Diplome National Superieur d'Expression Plastiques (DNSEP, 造形芸術)とDiplome Superieur d'Arts Appliques (DSAA, 応用美術)です。入学試験はポートフォリオ(個人の作品をまとめたもの)の提出と文化に関する知識・分析力・デッサン力の審査、口頭試問です。初年度に入学する学生は年齢が18歳から24歳までとなります。DNSAの取得後、博士課程に相当する3年間のコースがあります。
その他の分野を学べる機関には、装飾芸術高等国立学校(ENSAD: Ecole nationale superieure des arts decoratifs)、 工業創造高等国立学校(ENSCI: Ecole natinale superieure de creation industrielle)、アルル写真高等国立学校(ENSP:Ecole nationale superieure de la photographie d’Arles)、ル・フレノワ――現代芸術に関する国立アトリエ(Le Fresnoy-- Studio national des arts contemporains)などがあります。
40校の機関が各地方に1校以上、配置されています。約2割が国立で、残りが地方です。教育は理論(美術史・哲学としての美学・人文学)と、実技の二つで成り立っています。学士に相当する課程の教育期間は3年間です。修士に相当する課程は2年間、博士に相当する課程は3年間です。
受験者はいずれもバカロレア相当の資格を取得している必要があります。試験の形式は教育機関や課程で異なりますが、大きくは共通しています。試験は最初にポートフォリオを提出し、これに対する審査員の評価に基づいて面接を行うというものです。同時に登録する総合大学で取得できる資格は、次のものがあります。
【学士号より前】
- BTS (le brevet de technicien superieur d’arts appliques: 応用美術に関する高等技術免状)
- DMA(le diplome de metiers d’art: 美術工芸に関する免状)
【学士号相当】
学士号相当のレベルはDNA (Diplome National d'Art)となり、専攻によって以下のいずれかになります。
- DNA option art
- DAP option design
- DNA option communication
【修士号相当】
- DNSEP(le diplome national superieur d’expression plastique: 造形表現に関する高等国家免状)
- DSAA(le diplome superieur d'arts appliques: 応用美術に関する高等免状)
私立美術学校の名称は様々で、「エコール」「アンスティテュ」の他、「コレージュ」もあります。大半がカトリックの芸術に関連するもので、リヨン、レンヌ、リール、ナント、トゥルーズに機関があります。
入学試験は様々です。いずれもバカロレア相当の資格を持っている必要はありますが、オンライン出願のみでポートフォリオが課されていない学校もあります 。相対的に見て、国公立よりは入学しやすいと言うことはできるでしょう。学士号や修士号に相当する資格を取得できる学校がほとんどです。博士に相当する課程はありません。
これらは授業料がそれぞれ異なりますが、いずれも高額です。例えばカトリックの芸術を学ぶ機関で学士相当課程3年間の授業料はおおよそ、第1学年と第2学年が1,300ユーロから3,000ユーロ、第3学年が5,000ユーロから7,000ユーロとなっています。また英語で講義が受けられる機関では、学費が27,000ユーロ/年を超えています 。
L’annee preparatoire aux ecoles d’art: 美術学校準備年
国公立の教育機関は、バカロレア相当の資格があれば直接受験することができます。しかしいずれも難関のため、ほとんどの学生が準備過程を経ています。準備過程は、応用芸術(プロダクト・デザインなど)のMANAAと、造形芸術(絵画や彫刻)のためのPrepa artistiqueとに分かれています。いずれも技術力の向上と、ポートフォリオの作成によって、入学試験の準備をすることが目的です。
ここでは美術学校を目指すための準備学級Prepaについて述べていきます。準備学級の受験資格はバカロレア相当の資格を有している17歳から25歳の者です 。試験は、面接と、クロッキーや写真のような実技で行われます。国公立準備学級、私立準備学級、外国人向け準備学級があります。公立準備学級は20校あり、そのうち17の機関でAPPEA(Association nationale des classes preparatoires publiques)を作っています。学費は約250ユーロ~1,000ユーロ/年です。私立は約50機関あります。フランス教育・通信省が合格率や契約形態などをよく調べたうえで契約するように注意を促しています。学費は、約5,000ユーロ~8,000ユーロ/年です。年26,000ユーロを超えるところもあります 。私立美術学校の外国人向け準備学級では、初年度を外国人向けに美術の用語を教えます。Campus Artが紹介するもので、6校あります。パリ・コレージュ協会(College de Paris)に登録しているもので、2校あります。学費は約7,000ユーロ/年です。
<準備課程例>
学校名 |
リヨン高等美術学校準備過程(Classe preparatoire superieure des Beaux-arts de Lyon) |
対象者 |
・高等教育機関に進学を希望する者
・17歳~25歳まで
・バカロレア相当の資格取得者(日本の大学にすでに入学していること) |
選抜 |
・第一次試験:課題図書の試験、実技試験
・第二次試験:ポートフォリオについて面接試験 |
学費 |
・初年度1,600ユーロ/年
・次年度1,300ユーロ/年 |
言語 |
フランス語 |
期間 |
1年以上 |
学校という正式なものではないながらも、芸術を学べる工房が都市の随所にあります。ここでは種類を分けて紹介します。
大都市の場合、自治体が美術教室を開いていることがあります。パリ市の場合、18区のように美術が盛んな区の講座と、市全体の講座の二通りがあります。パリ市や、その区に住居がなくても、申し込むことができる場合が多くあります。
パリ市全体の場合は決まった時期に募集をかけています。対象者は18歳以上です。趣味というより、専門的資格の基礎を築くものと位置付けられており、理由のない欠席が3回続いた場合、退会を求められるなど厳しい要件が課されています。外国人にも門戸を開いており、フランス語の他、外国語の講座が開催されています。
- 大人向け自治体講座 CMA: Cours Municipeau d’Adultes
大都市の場合、様々な工房を登録した協会があります。例えばパリ・アトリエ協会の場合、約50もの分野があり、絵画、彫刻などの伝統的なものから、ブローチ制作、カリグラフィー、ステンドグラスまで多種多様に学ぶことができます。
その他、「Atelier des Beaux-Arts」(造形芸術アトリエ) という名称を冠した16あまりの協会があり、ここには合計で50の工房が登録されています。
- パリ・アトリエ協会 Paris-Atelier>芸術実技リスト画面
美術館では週末や、ヴァカンスで、短期の講座を開いています。時間が取れない場合、ガイダンス的な情報が欲しい場合など、有益でしょう。パリでは、ルーヴル美術館、オルセー美術館をはじめ、24もの美術館が講座を不定期で開いています。定員によって閉め切りますので、ネットから予約することが望ましいでしょう。
- ルーヴル美術館 Musee du Louvre >アトリエ(子供用と大人用)
- オルセー美術館 Musee d’Orsay >美術実技研修
画廊や個人の工房をはじめ、協会等に属さない工房が講座を開いています。これらは各都市の市役所・区役所が、住民向けに地域を紹介しているパンフレットに、「余暇」の項目として紹介していることが多くあります。パリの場合、市内全部で約110あります。
チケット制で制作の場所を貸しているアトリエが、講習会を開くことがあります。
- グランド・ショミエール Academie de la Grande Chaumiere
- アトリエ・ドゥ・レスキス Atelier de l’esquisse